栄助兵衛の四方山(よもやま)話

人生いろいろあって楽しい!

PCR検査

PCR検査は、1993年にノーベル化学賞を受賞したキャリー・マリスによって考案されたポリメラーゼ(P)・チェイン(C)・リアクション(R)(ポリメラーゼ連鎖反応)という方法によって特定のDNAを膨大な数に増やしてDNA解析をするための検査です。

今回の場合、被験者のサンプル中に新型コロナウィルスがあればそのDNA(RNA)が増えて感染が陽性と判定されるのです。

感染してなければ、増えないので検出されず陰性となります。数億個ぐらいまで増殖させるのに数時間を要します。

多くの大学の医学部や生物学、農学など遺伝子DNAの解析を伴う研究では不可欠な検査法なので、新型コロナウィルスのDNAを選別・増殖させる検査薬(プライマーとヌクレオチド、ポリメラーゼ)さえあれば、多くの大学や研究機関で検査可能という訳です。

新型コロナウィルスの感染者選別のために、PCR検査が必要なのに日本での検査数が極端に少ないことが問題になり、ノーベル賞学者の山中先生が日本中の大学を使えば大量に処理できると提言されていましたが、理由は上記のようなことにあったのです。

ちなみに、分子生物学などでDNA解析をするためには元のDNAを大量に増殖させることが不可欠で、このPCR検査が発明される前は、大腸菌にDNAを忍ばせて増やしていました。

このPCRの発明によりDNA解析のスピードが格段に上がり、遺伝子のゲノム解析などの分子生物学の発展に大きく寄与したことで発明者のマリスにノーベル化学賞が与えられたそうです。

このマリスさんは、1983年のPCR発明当時は学者ではなく、バイオベンチャーのシータス社の社員で、彼女とのドライブ中にPCRのアイデアを思いついたと言っています。

以上、福岡伸一博士の「生物と無生物のあいだ」より

 

DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)とでは何が違うかと言うと、DNAが細胞核の中にあって二重らせん構造をしているというのはご存知だと思います。これに対して、RNAは一本鎖、つまり、DNAの片側だけの構造だということです。

DNAは、遺伝情報の保存と複製のために二重らせん構造をしていて、二重のDNAを2本に引き裂いたらRNAと同じようなものになります。

化学的には、情報の最小単位となる4つの塩基のうちの1つだけDNAとRNAでは違うそうですが、PCR検査で増殖させる、つまり塩基配列を転写して同じ配列を複製する上では、使用するポリメラーゼ(酵素)が違うだけで、原理的にはDNAもRNAも大きな違いはないようです。

ちなみに、PCRとは関係ない話ですが、人間の体内においては、細胞核内でDNAの塩基配列からメッセンジャーRNA(mRNA)がつくられて、それが核外に出てからリボソームによってmRNAの情報をもとにアミノ酸の配列がどんどん作られてたんぱく質が合成されていきます。

もうひとつPCRとは関係ない話ですが、がんは遺伝子の病気と言われるのは、DNAに損傷が蓄積されて作られるたんぱく質が異常になるとともに、異常タンパク質をつくる細胞が無制限に増殖して腫瘍を形成するまで増え続け、やがて病院でその腫瘍が発見されてがんと診断されます。

DNAが損傷する最大の要因は、酸化ストレスだそうで、酸化を引き起こす要因としては、ミトコンドリアからの活性酸素とか、免疫細胞による炎症です。ですから、酸化をしないようにすることが、がんばかりで無く様々な病気の予防になる次第です。

人間の体内では1日に500億~700億の(全体の1%)の細胞が再生されるとともに、細胞内においても、オートファジーによってたんぱく質が分解、浄化、再利用されるという、とてつもないことが絶え間なく行われています。 これらを代謝回転というのですが、この代謝回転のスピードが遅くなることで、老化細胞が増え身体全体が老化する次第です。 物理的な言い方をするとエントロピーが増大すると言うことです。

生命体は、このエントロピーの増大に対抗して体内秩序を維持し生き続けるために、絶え間なくミクロに生まれ変わり続けて増大するエントロピーを体外に排出しています。

水とタンパク質と脂質でできた人間が80年近く生きていられるのは、分子レベルでミクロに生まれ変わり続けているからで、身体の構成成分を分子レベルで見ると半年から1年で、ほとんど別人になっているそうです。